リンゴ狩り#5・・最終章

「ニュースの時間です。栽培されている生物兵器ナノマシン制御系が、一段と向上し一気に実用化へと向かいそうです。この生物兵器は一見果物の形をしており、細胞単位でナノマシンが組み込まれていて、標的を探知すると最大スピード約200kmで目標物に体当たりし、生物兵器自体が爆発し目標物を破壊します。今まで火星某所で8年以上にわたり実験を繰り返していましたが、このほど、ようやく軍用兵器として実用化の目途が立ちました。・・・次のニュースです」

「・・火星?ここが?」

「そうよ。性格には火星北半球第7区特殊人格者収容所」

「特殊・・何だって?」

「ソシオパスのことよ。反社会的な傾向の強い人格の持ち主、あなたみたいな」

「で、その収容所なのか?」

「わたしはソーシャルワーカーだけど、実際は看守なのよ」

「おれは囚人で、看守の君と何度も寝てるんだぜ。そんな馬鹿な話・・」

「それも、仕事の一部だったけれど、これで終わり。あなたのこと大っ嫌いだった

わ」

「つまり、同棲しながら昼も夜も監視してたのか?」

「ええ、ええ、ホントうんざりだった。この2年」

「この後、どうなる?」

「あなたは囚人だからずっと此処に。わたしは地球へもどるわ」

「リンゴ狩りの仕事は、どうなる」

「仕事?そうね、あなたの大好きなお仕事は、もう・・用済みになったのよ、あな

た」

「・・・」

「昔の事って覚えてる?」

「いや、1年くらいで、すぐ忘れてしまう」

「あなたが14歳か15歳の時、性格分析テストを受けてるのよ。VK式って言われて

るけれど」

「覚えてない」

「でしょうね。あなたはハイスクールへは進学せずにここへ連れて来られた。リンゴ

の実験は既に始まっていて、あなたは来る日も来る日も、大好きなお仕事。多分、あ

なた、今19歳くらいよ」

「じゃあ、4、5年ここで」

「年上の恋人がいたの、覚えていない?」

「いや」

「わたしの前任者よ。まったく、初体験の相手の事まで・・本当にソシオパスね」

「・・・」

「どんな気分?」

「いや、別にこれと言って・・」

「普通の人なら、突然の事で信じられなくとも、徐々に感情がわきあがってくるわ。

悲しみ、とか、怒り、とか、絶望がね。でも、あなたは幾ら待っていても永遠に

このままなのよ」

「このままなのか?」

「永遠に・・」

 

(終わり)

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