放課後、数学を

今週のお題「憧れの人」一緒に勉強していた。おれは彼女に憧れていた。好きだった

のに告白する事も無く、数学を一緒に勉強しているだけで幸福だった。大抵は図書室

のコーナーの席で二人で勉強していたので、学校内では公認のようなものだった。進

学校なので教師も大目に見てくれた、と言うよりも、そんな野暮な教師はいなかっ

た。勉強が出来るといい事もある。

 

彼女は第二志望のMARCHをセンター受験することになっていたので、文系数学の

二次対策を勉強していたおれとは、別の問題集を解いていた。男女二人の高校生が

隣の席に座っていながら、別々の問題集を解いている。言葉のやりとりもほとんど

なく・・・時間と狭い空間だけを、おれたち二人が共有していた。

 

今でも、彼女の笑顔が思い浮かぶ。年を取って始めてわかるのがその年頃の少女特有

の媚態である。彼女は望んでいた。あの時、キスをするべきだったのだろうか。図書

室の誰も見ていないコーナーで。大人になってみて、ようやく分かる事もある。