今週のお題「憧れの人」昔のおれは憧れの人に、まともに挨拶もできないくらいシャ
イだった。憧れの人に「おはよう」といわれたら「おはよう」と必ず、上ずった声で
答えてしまうくらいだった。しかし、ある日を境に、憧れの人と挨拶することは
なくなってしまった。彼女は思春期緘黙症になった。学校には来ていたし、授業にも
出ていた。友人たちや先生とのコミュニケーションは、もっぱら筆談だった。
そのうち、おれは自分が彼女のことを、もう憧れていない事に徐々に気づき始め
ていた。「自分は面倒な女が嫌いなのだ」とわかったおれは、少しずつチューニを卒
業しつつあった。