カン違いしている人がいます
今週のお題「憧れの人」現代国語の教師が、そう言った。「君たちの中には、自分の
『憧れの作家』がいるかも知れませんが、そういう作家の物真似をしても本物にはな
れません。アメリカ人が着物を着たり、日本人がヒップ・ホップをするようなもので
す」続けてそんな事をいうものだから、おれたちは体育の授業は柔道と剣道以外は全
部ボイコットすることにした。それに西洋人の物真似だからと素っ裸になってやっ
た。
この馬鹿げた騒ぎで午前中の授業は全部休講になり、おれたちは体育で使う柔道着を
ノーパン状態で身につけて、校内の売店にサンドイッチを買いに出かけた。「よう、
勇ましい格好だなあ」と売店のにいちゃんが褒めてくれたが、別に黒帯でも何でも
ない。
おれたちはサンドイッチを食ったあと、まだ物足りなかったので売店で天ぷらそばを
食うことにした。「おばちゃん、てんぷらくれ」と言ったそのとき、おれは妙な事に
気づいた。おれは今、大学生だ。憧れの人は失恋して、自分の部屋で猫と一緒に眠っ
ている。これは、夢だ。
だいたい村上春樹的な世界に浸っていい感じだったのに、これじゃあ文体といい、シ
チュエーションといい夏目漱石の『坊ちゃん』じゃあないか。
「おれの村上春樹的セカイを返せええええ!!」
と、おれは『坊ちゃん』的セカイの中心で叫んでみた。いちおうカタチだけ。