リンゴ狩り#4・・(未完)

イチロー君はリンゴの群れが浮遊している位置から、20mほど離れ

上方30度の角度で、MP5を掃射しました。「扇形に撃つ。弧を描くように」

自分に言い聞かせながら、30発の弾倉がからになるまで、フルオートで

撃ちつづけました。係官が用意したのは曳光弾が混ざってました。

イチロー君は自分の撃つ曳光弾の、きれいな軌跡に見取れていました。

 

リンゴたちは、バラバラになって地上に落ちるもの、飛び去るもの、

辺りを右往左往するものが、ありましたが、8割方「処分」できました。

 

イチロー君は、警戒しながら地上に落ちたリンゴの破片を取りに

前へと進みました。官給品のビニール袋には入りきらないほどたくさんの

リンゴの破片が散らばっていたので

「一回じゃムリだな」

と思ったイチロー君は、一度、事務所に戻って換金してから、また来る事に

しました。

 

ふいに、斜め後ろから何かが飛んでくる気配がしました。イチロー君は

咄嗟に振り向くと同時に、ベレッタを構えていました。リンゴだと思った時には

既に3発撃っていました。更に、左に2個、右にも2個、同時に急襲して

来ます。ベレッタ2丁を両手に、撃ち捲くります。4個のリンゴは吹き飛び

ました。

 

そこへ、またも、一個のリンゴが・・・。

ベレッタの引き金を引いた時、違和感を感じ、咄嗟に2丁とも投げ捨てました。

頭を両腕で庇ったまま横に転がって、小さな岩の陰に隠れます。

 

イチロー君はゆっくりとナイフを抜きました。MP5はベレッタの辺りに

置いてきてしまいました。頼りにしていたベレッタは、2丁同時に

ジャミングを起こし、使い物にはならなくなりました。

 

左で逆手にナイフを持って、額の真ん中にツカの部分を当てます。

右の手のひらを、ナイフのツカと額の間に滑り込ませると、まるで

犀のように、額に一本角が生えているかの様に見えます。

 

リンゴが真っ直ぐに飛んで来てくれれば・・・。

イチロー君は右上にリンゴの姿を捉えました。

即座に立ち上がると、ナイフの角が生えた額を真っ直ぐリンゴに向けました。

「ぶつかって来い。こっちへ真っ直ぐ、ぶつかって来い」

時速160kmのストレートでリンゴがイチロー君の額に・・・

 

ガシッ!!

 

ナイフがリンゴを受け止めて、串刺しにしました。しかし、リンゴの

芯を貫いているかは、わかりません。イチロー君は、右手で小型のナイフを

取り出して、串刺しになっているリンゴの真横から止めの一撃を

くれてやりました。

 

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長い一日が終りました。事務所で21個分のリンゴの破片を換金して

イチロー君は家に戻ります。

 

小さな家の中で同棲しているクミコが、慌しく荷物をまとめています。

「どうしたんだ?」

「出て行くわ」

「何故?」

「ウンザリだわ。こんな暮らし」

「おれは、今日50200円も稼いで来たんだ」

「だから、何?」

「金はこれからも稼ぐし、いい暮らしもできる」

「あのリンゴがどこで栽培されているか、知ってるの?」

栽培じゃない。全部、野生のリンゴだ」

「本当に知らないのね」

クミコはへそくりで買ったトランジスタラジオを取り出すと

「もうじきニュースの時間だわ。本当の事がわかるから」

・・・ラジオがニュースを伝え始めた。

 

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