書評『プレイヤーピアノ』#1
書評です。半世紀以上も前の古いSFだが、扱っている内容は今日的という
意味で「新しい」作品です。カート・ヴォネガット『プレーヤーピアノ』、
1952年に書かれました。カート・ヴォネガットについては詳しく
説明するまでも無いと思います。村上春樹のデビュー作『風の歌を聴け』は
その文体が、ヴォネガット『スローターハウス5』の日本語訳から、インスパイア
されたものです。日本人の作家にも大きな影響を与えました。1984年には
世界ペンクラブの大会が東京で開催され、ヴォネガットも来日して講演など
を行っています。
作品について簡単に触れると、計画経済社会になってしまった未来のアメリカ
では、次から次へとさまざまな仕事が機械化され、人間の仕事を奪い続けている。
こんな状況に「何か間違っている」と違和感を感じ始めたエリート・テクノクラート
の工学博士(主人公)が、いろいろ振り回された挙句、この管理社会に対して
暴動蜂起する話です。なんとなく時代背景を考えるとわかるのですが、1948年に
は、ジョージ・オーウェルがスターリニズム批判の『1984年』を書いています。
『プレイヤーピアノ』も成功した社会主義を模した計画経済管理社会。戦後の日本と
もよく似ていて、日本人のサラリーマンが読むと「社畜SF」と自虐的なコメント
をしそうです。で、冗談ではなく、本当に今日的な若年労働者雇用問題も昨今の
シューカツ云々と深く関わっているのですが、その部分はまた次の書評で、詳しく
扱います。とりあえず#1はこの辺で・・・