書評『時は乱れて』ディック・・#4
書評の続きです。
後半以降の部分をネタばれにならないように紹介するのに、どうすればいいか
少し考えてみたのですが、ディックの作品には妙な共通点があって、そのポイント
から攻めていくと、他の作品を読んでいる人には何となく、そのテイストが
わかるような、そんな感じになっています。
この『時は乱れて』の多分次くらいに書かれた『高い城の男』と実に良く似ている
のが、タクシーを捕まえようとして苦労する、で、トボトボ歩く。このトボトボ感
の「こころもとなさ」というか、セカイから完全に置いてきぼりを食らってしまった
ようなトホホな感じというのが、ディックの「味」のひとつだと、私はそう思って
います。で、ココはばらしてしまいますが、主人公たちが住んでいたのは、「虚構の
町」なのです。つまり、ディック作品でお馴染みの「本物そっくりに作ってある偽
物」ですね。で、この「偽物の町」からものすごく離れた、数百マイルも離れた道路
を主人公と妹の夫(義弟)の二人がトボトボ歩く。このトボトボ感がまた・・・
「真実のある場所は遥かに遠い」と言った感じでしょうか。いつも、感じるのです
が、車で移動するのがアメリカ人の日常とすると、このトボトボ歩いているのは
「日常から弾き出されてしまった疎外感」をあらわしているのかもしれません。
書評終わりです。